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下請法違反事例が増加!事例から学ぶ3つの違反行為を弁護士が解説!

はじめに

下請法違反の事例が増えており、2020年度の指導・勧告件数は過去最多となりました。

公正取引委員会は、個人であるフリーランスも適用対象になるとの見解を公表しています。
事業者やフリーランスに発注する事業者は、適切な手続きを踏まないと摘発されるおそれがあります。

そのような事態を招かないためにも、事業者においては、下請法違反となるケースをきちんと理解しておくことが必要です。

今回は、下請法違反となるケースについて、事例を交えながら弁護士がわかりやすく解説します。

1 下請法の違反行為

公正取引委員会から指導・勧告を受けた事例の中でも特に多いのが、以下の3つの違反行為です。

  1. 下請代金の減額の禁止
  2. 返品の禁止
  3. 不当な経済上の利益の提供要請の禁止

2 下請代金の減額の禁止

下請法は、親事業者が遵守すべき事項の一つとして、以下の規定を設けています。

    下請法4条1項3号

    親事業者は、下請事業者に対し製造委託等をした場合は、次の各号(役務提供委託をした場合にあつては、第一号及び第四号を除く。)に掲げる行為をしてはならない。

    三 下請事業者の責に帰すべき理由がないのに、下請代金の額を減ずること。

(1)下請代金の減額とは

委託者(発注者)は、受託者(下請業者)に落ち度がないにもかかわらず、あらかじめ合意した下請代金の額を減額することはできません。

一方で、下請業者に以下のような「落ち度」がある場合は、下請代金を減額しても下請法違反にはなりません。

  1. 納品物に瑕疵や納期遅れがあるとして受領拒否または返品をした場合
  2. 「1」の場合に受領拒否または返品せずに親事業者が手直しをした場合
  3. 瑕疵や納期遅れ等により納品物の価値が低下した場合


これらにあてはまらないケースにおいて、下請代金を減額することは、それがたとえ下請業者の了解を得ていたとしても、下請法違反となります。

(2)実際の事例

家電製品の配送・設置を主な事業内容とする株式会社フジデンは、個人や事業者に対し、家電製品等の小売業者から請け負う家電製品の配送・設置を委託していました。

同社は、下請業者に落ち度がないにもかかわらず、顧客満足度向上のための取組に要する費用として「CS管理費」を、実際には利用実態がない「防犯カメラ代」をそれぞれ下請代金から差し引くことにより、下請代金を減額していました。

これに対し、公正取引委員会は以下のような勧告を行いました。

  1. 当該行為が下請法に違反すること等を取締役会決議により確認すること
  2. 今後下請法に違反することがないよう、社内体制の整備のために必要な措置を講じること
  3. 役員や従業員に「2」を周知徹底すること
  4. 勧告に基づき採った措置について、公正取引委員会に報告すること


本事例における減額分は総額2882万6725円に上りましたが、同社は勧告を受ける前に、下請業者に対し、減額した金額を支払っています。

3 返品の禁止

下請法は、親事業者が遵守すべき事項の一つとして、納品物の返品に関するルールを設けています。

    下請法4条1項4号

    親事業者は、下請事業者に対し製造委託等をした場合は、次の各号(役務提供委託をした場合にあつては、第一号及び第四号を除く。)に掲げる行為をしてはならない。

    四 下請事業者の責に帰すべき理由がないのに、下請事業者の給付を受領した後、下請事業者にその給付に係る物を引き取らせること。

(1)返品の禁止とは

委託者は、原則として、下請業者から納入された物を受領した後に返品することはできません。

もっとも、物を受領した後に瑕疵があることが判明し、それが下請業者の落ち度によるものである場合は、受領後速やかに返品するかぎりでは下請法違反とはなりません。

(2)実際の事例

紳士靴や婦人靴の製造販売を主な事業内容とする株式会社リーガルコーポレーションは、他の事業者に対し、紳士靴や婦人靴等の製造を委託していました。

同社は、下請業者から商品を受領した後、品質検査を行っていないにもかかわらず、その商品に瑕疵があるとして、約1年2ヶ月もの間、当該商品を引き取らせていました。

これに対し、公正取引委員会は以下のような勧告を行いました。

  1. 返品した商品に係る下請代金を支払うこと
  2. 今後下請法に違反することがないよう、社内体制の整備のために必要な措置を講じること
  3. 役員や従業員に「2」を周知徹底すること
  4. 勧告に基づき採った措置について、公正取引委員会に報告すること


本事例において、返品した商品の下請代金相当額は総額1147万4218円に上りました。

リーガルコーポレーション社は、勧告を受ける直前の時期に開いた取締役会で、下請業者に商品を引き取らせた行為が下請法に違反すること、今後下請法に違反する行為を行わないことを決議・確認しています。

4 不当な経済上の利益の提供要請の禁止

下請法は、親事業者が遵守すべき事項の一つとして、下請業者に対し、不当な経済上の利益を提供要請することを禁止しています。

    下請法4条2項3号

    親事業者は、下請事業者に対し製造委託等をした場合は、次の各号(役務提供委託をした場合にあつては、第一号を除く。)に掲げる行為をすることによつて、下請事業者の利益を不当に害してはならない。

    三 自己のために金銭、役務その他の経済上の利益を提供させること。

(1)「経済上の利益」とは

親事業者が自社のために、下請事業者に対し、不当な経済上の利益を提供させることは禁止されています。
ここでいう「経済上の利益」とは、協賛金や従業員の派遣などを指すとされています。

たとえば、委託先について登録制を採用している親事業者が、登録された下請業者に対し、「協定金」などの名目で現金の提供を要請すると、下請法違反となります。

(2)実際の事例

自動車メーカーとして有名なマツダ株式会社は、他の事業者に対し、自社が販売する自動車等の原材料製造を委託していました。

同社は、下請業者に対し、算出根拠や使途を明確にしないまま「手数料(取引実績を基に算出される管理自給と呼ばれるもの)」という名目で、約1年間金銭を提供させていました。
また、手数料を振込ませる際にかかる振込手数料を下請業者に負担させていました。

これに対し、公正取引委員会は以下のような勧告を行いました。

  1. 当該行為が下請法に違反すること等を取締役会決議により確認すること
  2. 今後下請法に違反することがないよう、社内体制の整備のために必要な措置を講じること
  3. 役員や従業員に「2」を周知徹底すること
  4. 勧告に基づき採った措置について、公正取引委員会に報告すること


本事例において、マツダ社が下請業者に提供させた金額は総額5112万3981円にも上りましたが、勧告を受ける前に、下請業者に対し、提供させた金額を支払っています。

5 まとめ

下請法は、いわゆる「下請けいじめ」を規制するために、親事業者が遵守すべき事項を定めています。
今回は3つの禁止行為について見てきましたが、このほかにも下請法は8つの禁止行為を定めています。

摘発件数が増えているなか、事業者は遵守すべき事項をきちんと理解したうえで、適切に下請取引を行うことが大切です。

弊所は、ビジネスモデルのブラッシュアップから法規制に関するリーガルチェック、利用規約等の作成等にも対応しております。
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なお、記事の内容は投稿時の法令・制度に基づいており、投稿後に法改正等がなされている可能性があります。
記事をご参考にされる際は、必ずご自身の責任において最新情報をご確認下さい。

   

勝部 泰之 (Yasuyuki Katsube)

                     

弁護士(35487 / 東京弁護士会)。証券会社勤務時代に携わったシステム開発案件を中心に、決済、暗号資産、特許関連法務を多く手掛ける。また、エンジェル投資家としてスタートアップ企業の成長を多角的にサポートする活動も行う。 George Washington University Law School (LL.M.・知財専攻) 卒業(2016)。経済産業省 中小企業庁主催 適正取引講習会 「下請法(実践編)」講師(2024)

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