
はじめに
2024年、日本ハムファイターズが6年ぶりにクライマックスシリーズ(CS)出場を果たしました。
この快進撃には、スポーツだけでなく、ビジネスや組織運営にも共通する重要な要素が隠されています。
今回の記事では、プロフェッショナルとしての経験を踏まえ、企業法務やコンサルティングの観点から日本ハムの成功を分析していきます。
1. 球団経営の視点:勝つだけがすべてではない
プロ野球は、単なるスポーツではなく、ビジネスとしての側面も大きいです。
ファンを楽しませる要素として、「勝つこと」はもちろん大きな要素ですが、必ずしも勝ち続けるだけがすべてではありません。
日本ハムは、スター選手を高額で集めるソフトバンクとは対照的に、若手選手を育てながら少ないコストでチームを運営しています。
これは、ソフトバンクのようなやり方が悪いという意味ではなく、そもそも目指しているところが異なるということです。
ソフトバンクホークスは、勝つためのプロフェッショナリズムを体現したチーム構成であり、それによって醸成されるブランド力を成長の軸とした組織づくりをしているように見えます。
このようなチームはいつの時代でも求められるスタイルであり、ソフトバンクホークスもその意味でとても魅力的なチームです。
2. コストを抑えて勝つ戦略
例えば、ソフトバンクホークスの総年俸は40.2億円と12球団トップですが、日本ハムはその半分の21.1億円で、12球団ワーストです。
それでも日本ハムは、選手の調子や特性を見極めた柔軟な起用法で、驚くべき成績を残しました。
これには、「高コスト=強さ」という一般的な考えにとらわれない新しいアプローチが光ります。
3. 選手成績とチーム戦略
野球は点を多く取った方が勝つスポーツです。
しかし、高い打率やホームランを多く打つ選手を揃えることが必ずしも勝利につながるとは限りません。
高年俸選手を集めたとしても、必ずしも得点期待値(Run Expectancy)は高まりません。
(1) ヒットと得点期待値の相関関係
例えば、打率3割クラスの近藤、柳田クラスの選手の年俸は3~4億円の水準ですが、打率2割5分クラスの選手については、若手であれば数千万円ほどの年俸水準になります。
それでは、2割5分と3割で得点力にどのくらいの差が出るのでしょうか?
1イニング計算してみると、そこまでの違いはありません。
- ヒットを25%の確率で打つバッター9人で組んだ打線: 約0.333点
- ヒットを30%の確率で打つバッター9人で組んだ打線: 約0.429点
ちなみに、これは確率分析の結果ですが、統計的な手法で分析したセイバーメトリクスによると、NPBの得点期待値はイニング開始時で約0.48点です。
野球は3アウトになる前にヒットが2~3本出れば1点が入るスポーツですが、エラーや四死球が絡めばヒットが出なくても得点が入る可能性もあります。
チームのマネジメントにおいて、高額年棒のスター選手を取りそろえれば勝てるとは必ずしも言えないところに野球の面白さがありますが、新庄監督はまさにそのような発想に近いチームマネジメントをしているのがとても興味深いところです。
(2) ホームランと得点期待値の相関関係
ヒットではなくホームランで得点を取る場合の期待値はどうでしょうか?
ホームランは前後の打撃結果に関係なく、出れば確実に1点は入りますが、その分出現確率は低いです。
ちなみに、現在2024年ホームランキングのソフトバンク山川選手でも、本塁打率は5~6%ほどです(打席数603、打数544に対し、34本塁打)。
確率計算をすると、以下のようになります。
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本塁打率5%の打者9人を並べた場合の1イニングの得点期待値: 0.15点
ホームランの場合、1試合(27アウト)の得点期待値が1.35で、これを9で割ると0.15となるためです。
もちろん、ホームランバッターは打率や出塁率も高い傾向にあるので、この期待値はソロホームランによる上澄み分だけということになります。
ホームランバッターは得点を直接的に増加させる能力があるため、得点期待値も高い印象ですが、期待値への貢献度は思ったより少ないようです。
(3) ファイターズの選手構成
ファイターズには、年俸が1000万円に満たない水野、田宮、水谷といった若手でもレギュラークラスにいるのが非常に特徴的ですし、今期12試合に登板し2勝している福島、8セーブを記録している柳川に至ってはたったの330万円です(いずれも推定)。
こういった若手も将来は高年俸化していくのだと思いますが、現状は調子の良し悪しも見極めながら、スーパースターのみに頼らない組織であるところがファイターズの非常にユニークなところです。
4. 組織運営の視点から見た日本ハム
日本ハムファイターズの組織運営は、ビジネスのフラット型組織に似ています。
フラット型組織の特徴は、権限移譲と自律性を重視した組織です。
これはビジネス界でも注目される組織モデルですが、一方で統率力の欠如や連携の難易度が課題になることもあります。
末期の栗山政権はフラット型組織の悪いところが出てしまっていたように見えますし、起業したてのスタートアップなどが崩壊するのはこのパターンが多いです。
しかし、日本ハムはこの組織モデルを上手く活用し、若手選手が自発的に成長し、競争を経て結果を出せる環境を作り上げています。
5. 今後の展望
日本ハムは、新たな選手育成と戦術的な運営で、さらなる成長が期待されます。
今季の快進撃が、来季のさらなる躍進につながるのか注目されています。
これまでの結果を踏まえつつ、新たな戦略を取り入れ、引き続き進化していくことで、ファイターズは他球団に負けない競争力を維持していくでしょう。
まとめ
日本ハムファイターズの成功は、単に勝つための戦術だけでなく、コストを抑えた組織運営やフラット型の組織モデルに支えられたものです。
その中でも、新庄監督は、極めて短期間で、効果的なチーム運営と補強を行い、チームを引き上げたのが特徴的です。
今期の日ハムはエスコンフィールド開業2年目で、CS開催ができるだけでも興行面で大きなメリットがあります。
企業における経営や人材育成にも通じるこのアプローチは、まさにビジネスとスポーツの共通項を見出す好例と言えるでしょう。






