
はじめに
自社の会社名・商品名などを商標登録している事業者は数多く存在します。
商標登録することにより、他社による無断使用や模倣から守ることができるのです。
これから商標を登録しようと検討している事業者は、他社の商標権を侵害しないように注意する必要があります。
他社の商標権を侵害してしまうと、侵害した事業者には、重いペナルティが科される可能性があります。
そこで今回は、他社の商標権を侵害した場合のペナルティについて、弁護士がわかりやすく解説します。
ペナルティの重さを知っておくことで、侵害行為への抑止力となることが期待できます。
1 商標法に違反する「商標権侵害」とは
「商標権侵害」とは、登録商標を使用する権利のない第三者が、商標権が及ぶ指定商品や指定役務を無断で使用することをいいます。
商標権侵害が成立するかどうかは、商標と商品・サービスについてどれだけ類似性が高いかという基準で判断されます。
たとえば、商標と商品・サービスがすべて同一であれば、商標権侵害が成立することは明らかですが、商標が類似しており、商品・サービスが同一である場合にも商標権侵害が成立するとされています。
もっとも、私的利用の範囲内で他社の商標を使用する場合や、商標権者から許可を受けて商標を使用する場合などは商標権侵害に当たりません。
2 商標法に違反した場合の罰則
商標法に違反した場合、以下の罰則を科される可能性があります。
(1)商標権を侵害した場合
同一の商標を同一の商品・サービスに使用する方法で商標権を侵害した場合、
- 最大10年の懲役
- 最大1,000万円の罰金
のいずれか、または両方を科される可能性があります。
さらに、法人の場合には、違反行為者とは別に法人に対しても、
- 最大3億円の罰金
が科される可能性があります。
(2)商標権侵害とみなされる行為を行った場合
類似する商標を同一の商品・サービスに使用する方法、または、同一の商標を類似する商品・サービスに使用する方法で商標権を侵害した場合、
- 最大5年の懲役
- 最大500万円の罰金
のいずれか、または両方を科される可能性があります。
さらに、法人の場合には、違反行為者とは別に法人に対しても、
- 最大3億円の罰金
が科される可能性があります。
このように、商標権侵害に対する罰則は、非常に重い内容になっています。
3 他社から商標権侵害と訴えられた場合の対応
商標権者から商標権を侵害されたとする旨の警告書が届いた場合、事業者にはどのような対応が求められるのでしょうか。
このような場合、まずは、事実関係をしっかりと調査し、必要に応じて反論することになります。
具体的な反論としては、以下のようなものが挙げられます。
- 先使用権を根拠とする反論
- 類似性を否定する反論
- 商標的使用ではないとする反論
- 登録商標が無効であるとする反論
- 損害が発生していないとする反論
(1)先使用権を根拠とする反論
商標登録は「早い者勝ち」が原則です。
もっとも、他社が商標登録を出願する前からその商標を使用しており、その商標が自社の商品やサービスを表示するものとして広く需要者に認識されていた場合には、例外的にその商標を使用し続けても商標権侵害にはなりません(「先使用権」といいます。)。
上記要件に照らして、自社に「先使用権」が認められる場合には、先使用権を根拠とする反論が成り立ちます。
(2)類似性を否定する反論
登録された商標は、指定商品・指定役務との関係では、同じ商標だけでなく、類似する商標を使用することもできません。
もっとも、類似しているかどうかの判断には主観が入りやすいため、商標権者が類似性を肯定していても、類似性を否定する反論をすることは可能です。
実際にこれまでにも、商標権侵害で訴えられた側が、類似性を否定する反論に成功した裁判例は数多くあります。
(3)商標的使用ではないとする反論
商標は、他社の商品・サービスと区別して、自社の商品・サービスであることを消費者に示すために使用されるものです。
自社の商品・サービスであることを消費者に示すために他社の登録商標を使用することはできませんが、それ以外の目的で使用することは禁止されていません。
そのため、登録商標を使用していても、それが「商標的使用ではない」と反論することが可能です。
(4)登録商標が無効であるとする反論
商標登録につき、他社に先を越されてはしまったものの、それがいわば「横取り」ともいえるような場合には、商標登録自体が無効であると反論することができます。
たとえば、横取りして登録された商標につき、公序良俗に反するおそれのある商標にあたるとして無効であると判断した裁判例もあります。
(5)損害が発生していないとする反論
商標権侵害にあたるとして損害賠償請求を受けた場合、たとえ他社の商標権を侵害していても、その商標に顧客吸引力がなく、自社の収益にまったく貢献していないような場合には、商標権者に損害が発生していないと反論することが可能です。
4 まとめ
商標権侵害に対する罰則は、極めて重い内容になっています。
罰則を科されるような事態になると、事業者は事業存続の危機に陥る可能性があります。
そのため、他社の商標権を侵害しないように細心の注意を払うことが必要ですが、万一の事態に備えて、どのような対応が可能かを把握しておくことも大切です。
弊所は、ビジネスモデルのブラッシュアップから法規制に関するリーガルチェック、利用規約等の作成等にも対応しております。
弊所サービスの詳細や見積もり等についてご不明点がありましたら、ぜひお気軽にお問い合わせください。






