
はじめに
暗号資産(仮想通貨)を扱う事業を検討している事業者にとって、自社の事業が「暗号資産交換業」にあたるかどうかという点は一番の関心事であるかもしれません。
暗号資産交換業にあたる場合、事業者にはさまざまな規制が課されることになるためです。
今回は、「暗号資産交換業」について、事業の概要と法規制を中心に見ていきたいと思います。
1 暗号資産交換業者とは?|暗号資産交換業の定義

「暗号資産交換業者」とは、言葉のとおり、暗号資産交換業を行う事業者のことをいいます。
そこで、「暗号資産交換業」の定義が問題となりますが、資金決済法は以下のように定義しています。
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【資金決済法2条7項】
この法律において「暗号資産交換業」とは、次に掲げる行為のいずれかを業として行うことをいい、「暗号資産の交換等」とは、第一号及び第二号に掲げる行為をいい、「暗号資産の管理」とは、第四号に掲げる行為をいう。
一 暗号資産の売買又は他の暗号資産との交換
二 前号に掲げる行為の媒介、取次ぎ又は代理
三 その行う前二号に掲げる行為に関して、利用者の金銭の管理をすること。
四 他人のために暗号資産の管理をすること(当該管理を業として行うことにつき他の法律に特別の規定のある場合を除く。)。
これらを簡単にまとめると、以下のように言い換えることができます。
(1)暗号資産の売買又はその媒介や取次ぎ、代理を業とすること
暗号資産の売り買いを業とすることはもちろんのこと、売り買いの媒介や売り買いの代理などを業とすることも暗号資産交換業にあたります。
ここでいう「媒介」行為の例としては、契約締結に向けた勧誘行為や条件交渉などが挙げられますが、該当性の判断が難しいケースもあります。
そのため、最終的には個別の事例ごとに実態に即して実質的に判断されることになります。
(2)暗号資産の交換又はその媒介や取次ぎ、代理を業とすること
暗号資産の交換を業とすることや暗号資産の交換の媒介や代理などを業とすることは暗号資産交換業にあたります。
(3)(1)(2)の事業に関して、利用者の金銭を管理すること
暗号資産の売買や交換、これらの媒介などを業として行うにあたり、利用者の金銭管理を業とすることは暗号資産交換業にあたります。
(4)他人のために暗号資産を管理すること
「他人のために暗号資産を管理する」とは、暗号資産の売買などは行わずに利用者の暗号資産を管理し、利用者の委託に基づいて利用者が指定するアドレスに暗号資産を移転させることを意味します。
この点についても、該当性の判断が難しいケースがあるため、最終的には個別の事例ごとに実態に即して実質的に判断されることになります。
たとえば、事業者が単独で、利用者の利用者の暗号資産を移転することができる秘密鍵を保有している場合など、利用者の関与なく事業者が主体的に暗号資産を移転できるような状態にある場合は、ここでいう「他人のために暗号資産を管理すること」にあたり、暗号資産交換業に該当します。
2 暗号資産交換業の登録

暗号資産交換業を行う場合、資金決済法上の登録を受ける必要があります。
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【資金決済法63条の2】
暗号資産交換業は、内閣総理大臣の登録を受けた者でなければ、行ってはならない。
暗号資産交換業の登録はハードルが高く、たとえば、以下のような要件を満たしていることが必要です。
(1)財産的基礎を有すること
暗号資産交換業を適正・確実に行っていくのに必要な財産的基礎があることが必要です。
具体的には、資本金の額が1000万円以上あり、純資産額がマイナスでないことが必要になります。
(2)体制が整備されていること
暗号資産交換業者は、暗号資産や金銭といった利用者の財産を扱うことになるため、適正・確実に事業を遂行することが求められます。
そのため、暗号資産交換業を適正・確実に行っていける体制が整備されていることが必要です。
(3)コンプライアンス態勢が整備されていること
利用者の暗号資産交換業に対する信頼などの観点から、暗号資産交換業者は法令や社内規則などを遵守するよう努めなければなりません。
また、適正・確実な業務運営を確保する観点から、業務の規模などに応じた社内規則などを定めるとともに、従業員などに対しては社内教育を行うなどして、その遵守状況を検証する必要があります。
3 暗号資産交換業に対するその他の法規制

暗号資産交換業者は、登録後も以下のようにさまざまな規制を受けることになります。
(1)情報の安全管理義務
暗号資産交換業者は、事業によって扱う利用者に係る情報などを安全に管理するために必要な措置を講じなければなりません。
(2)利用者の保護義務
暗号資産交換業者は、利用者に対し契約内容に関する情報を提供するなどして、利用者の保護を図らなければなりません。
また同時に、暗号資産交換業を適正・確実に遂行していくために必要な措置を講じる必要があります。
(3)金銭・暗号資産の分別管理義務
暗号資産交換業者は、利用者の金銭や暗号資産を自社の金銭や暗号資産と分別して管理しなければなりません。
言うまでもありませんが、分別せずに管理してしまうと、金銭や暗号資産の所有者を特定することができなくなります。
(4)帳簿書類・報告書の作成等
暗号資産交換業者は、その事業に関する帳簿書類を作成し、これを保存しなければなりません。
また、事業年度ごとに事業に関する報告書を作成し、内閣総理大臣に提出する必要があります。
さらに、一定の期間ごとに、管理する利用者の金銭の額と暗号資産の数量などに関する報告書を作成し、同様に内閣総理大臣に提出しなければなりません。
4 暗号資産交換業に関する罰則

これまで見てきたように、暗号資産交換業者にはさまざまな規制が課されることになりますが、規制に違反した場合には罰則を受ける可能性があります。
以下では、主な罰則について見ていきたいと思います。
(1)無登録で事業を行った場合
登録を受けずに暗号資産交換業を行った場合、
- 最大3年の懲役
- 最大300万円の罰金
のいずれか、または両方を科される可能性があります。
また、事業者が法人である場合には、行為者とは別に法人に対しても最大300万円の罰金が科される可能性があります。
(2)分別管理義務に違反した場合
利用者の金銭や暗号資産を自社の金銭等と分別せずに管理した場合、
- 最大2年の懲役
- 最大300万円の罰金
のいずれか、または両方を科される可能性があります。
また、事業者が法人である場合には、行為者とは別に法人に対しても最大3億円の罰金が科される可能性があります。
5 まとめ
暗号資産交換業に対するさまざまな規制は、資金決済法が定めているところではありますが、業態によっては、金融商品取引法など他の法規制も関係してきます。
また、登録を受けるためのハードルも高く、法改正などの動向にも目を配っておく必要があります。
暗号資産交換業を行うことを検討している事業者は、専門家に相談しながら進めることをおすすめします。
弊所は、ビジネスモデルのブラッシュアップから法規制に関するリーガルチェック、利用規約等の作成等にも対応しております。
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