
はじめに
DX(デジタルトランスフォーメーション)を推進する企業が増えてきています。
とはいえ、DXにより成果をあげている企業はまだまだ少ないように思われます。
こうした中で、経済産業省は2020年11月、企業のDXに関する自主的取組を促すことを目的として、経営者に必要とされる対応を「デジタルガバナンス・コード」としてまとめています。
DX化を推進する企業は、ここに記載されている内容を理解しておく必要があります。
今回は、経産省の「デジタルガバナンス・コード」について、詳しく見ていきたいと思います。
1 「デジタルガバナンス・コード」とは

「デジタルガバナンス・コード」とは、DX化を進める企業が増えてきている中で、企業価値を向上させるために経営者に求められる事柄を経済産業省が取りまとめたものをいい、上場・非上場や企業規模、法人・個人事業主を問わず、広く一般の事業者が対象とされています。
デジタルガバンナンス・コードの基本的事項は、「情報処理促進法」が定める「DX認定制度」に対応しており、以下のような構造になっています。
- ビジョン・ビジネスモデル
- 戦略
- 成果と重要な成果指標
- ガバナンスシステム
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【情報処理促進法31条】
経済産業大臣は、事業者からの申請に基づき、経済産業省令で定めるところにより、当該事業者について、前条第二項各号に掲げる事項に関する取組の実施の状況が優良なものであることその他の経済産業省令で定める基準に適合するものであることの認定を行うことができる
なお、ここでいう「デジタルガバナンス」とは、継続的かつ柔軟にDXを実現するために、経営者が明確な経営理念やビジョンなどを示し、その配下で組織や仕組みなどを確立したうえで、常時その実態を把握して評価するという取り組みのことをいいます。
2 ビジョン・ビジネスモデル

柱となる考え方および認定基準は、以下のように示されています。
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【柱となる考え方】
企業は、ビジネスとITシステムを一体的に捉え、デジタル技術による社会及び競争環境の変化が自社にもたらす影響(リスク・機会)を踏まえた、経営ビジョンの策定及び経営ビジョンの実現に向けたビジネスモデルの設計を行い、価値創造ストーリーとして、ステークホルダーに示していくべきである
【認定基準】
デジタル技術による社会及び競争環境の変化の影響を踏まえた経営ビジョン及びビジネスモデルの方向性を公表していること
デジタルガバナンス・コードより
ここでは、企業価値の向上に向けて、ステークホルダーの理解や協力などを得るための対話を行うことが重要であり、そのうえで必要な情報を整理・発信していくことが求められます。
また、認定にあたっては、然るべき機関(取締役会など)から承認を得た公開文書に記載されている事項や、同様に機関承認を得た方針に基づき作成された公開文書を元に判断されます。
3 戦略

「戦略」については、上記ビジョン・ビジネスモデルの部分で示した「柱となっている考え方」と「認定基準」がベースとなっています。
また、以下の2つに分けて、それぞれに柱となる考え方と認定基準が示されています。
(1)組織づくり・人材・企業文化に関する方策
柱となる考え方および認定基準は、以下のように示されています。
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【柱となる考え方】
企業は、デジタル技術を活用する戦略の推進に必要な体制を構築するとともに、組織設計・運営の在り方について、ステークホルダーに示していくべきである。その際、人材の確保・育成や外部組織との関係構築・協業も、重要な要素として捉えるべきである。
【認定基準】
デジタル技術を活用する戦略において、特に、戦略の推進に必要な体制・組織に関する事項を示していること
デジタルガバナンス・コードより
体制構築はもちろんのこと、人材に関する事項や外部組織との関係性などを踏まえた組織設計・運営の在り方などについて、ステークホルダーに示していくことが求められます。
また、認定にあたっての判断は、ビジョン・ビジネスモデルの場合と同様、機関承認を得た公開文章などを元に行われます。
(2)IT システム・デジタル技術活用環境の整備に関する方策
柱となる考え方および認定基準は、以下のように示されています。
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【柱となる考え方】
企業は、デジタル技術を活用する戦略の推進に必要なITシステム・デジタル技術活用環境の整備に向けたプロジェクトやマネジメント方策、利用する技術・標準・アーキテクチャ、運用、投資計画等を明確化し、ステークホルダーに示していくべきである
【認定基準】
デジタル技術を活用する戦略において、特に、ITシステム・デジタル技術活用環境の整備に向けた方策を示していること
デジタルガバナンス・コードより
戦略を推進していくうえで必要となるITシステムやデジタル技術を適切に活用できる環境を整備するうえで、そのためのプロジェクトや運用方法などを具体的にしたうえで、ステークホルダーに示していくことが求められます。
4 成果と重要な成果指標

柱となる考え方および認定基準は、以下のように示されています。
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【柱となる考え方】
企業は、デジタル技術を活用する戦略の達成度を測る指標を定め、ステークホルダーに対し、指標に基づく成果についての自己評価を示すべきである
【認定基準】
デジタル技術を活用する戦略の達成度を測る指標について公表していること
デジタルガバナンス・コードより
目標値が設定されているKPIなどを用いて、戦略の達成度を評価したうえで、その評価をステークホルダーに示していくことが求められます。
また、ここでいう「指標」としては、「企業価値創造に係る指標」や「戦略の実施により生じた効果を評価する指標」、「戦略の進捗を評価する指標」などが挙げられます。
5 ガバナンスシステム

柱となる考え方および認定基準は、以下のように示されています。
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【柱となる考え方】
- 経営者は、デジタル技術を活用する戦略の実施に当たり、ステークホルダーへの情報発信を含め、リーダーシップを発揮するべきである
- 経営者は、事業部門(担当)やITシステム部門(担当)等とも協力し、デジタル技術に係る動向や自社のITシステムの現状を踏まえた課題を把握・分析し、戦略の見直しに反映していくべきである。
また、経営者は、事業実施の前提となるサイバーセキュリティリスク等に対しても適切に対応を行うべきである。 - 取締役会は、経営ビジョンやデジタル技術を活用する戦略の方向性等を示すにあたり、その役割や責務を適切に果たし、また、これらの実現に向けた経営者の取組を適切に監督するべきである(取締役会設置会社の場合)
- 経営ビジョンやデジタル技術を活用する戦略について、経営者が自ら対外的にメッセージの発信を行っていること
- 経営者のリーダーシップの下で、デジタル技術に係る動向や自社の ITシステムの現状を踏まえた課題の把握を行っていること
- 戦略の実施の前提となるサイバーセキュリティ対策を推進していること
【認定基準】
ビジョンの実現などをステークホルダーに発信していくだけでなく、戦略の進捗や成果を常時把握していることが求められます。
また、リスク管理に整合した対策を全方位的に打っておくことも必要となります。
6 まとめ
日本では、企業のDX化を推進する経営者とステークホルダーの対話が不十分であることが一つの課題だと指摘されています。
デジタルガバナンス・コードは、そのような背景を踏まえ、継続的に企業価値を向上させていくために経営者に求められる対応についてまとめたものです。
内容は多岐にわたりますが、これを機にいまいちど自社の体制を見直してみることも大切です。
弊所では、ビジネスモデルのブラッシュアップから法規制に関するリーガルチェック、利用規約等の作成等にも対応しております。
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