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PayPayマネーの残高上限額が変更!背景にある資金移動業の改正

はじめに

PayPay社は、自社サイトにおいてPayPayマネーの上限を現行の500万円から100万円に減額すると公表しました。


2021年6月1日より、より安心してサービスをご利用いただくため保有できるPayPayマネーの残高上限額を500万円から100万円へ変更いたします

                                      PayPayからのお知らせより

これにより、2021年6月1日以降、PayPayマネー残高の上限が100万円を超える場合は、PayPayでの決済や送金などができなくなります。

そのため、同年5月31日までにPayPayマネーの残高を100万円以下にしておく必要があります。

PayPay社は、資金決済法上の資金移動業者として登録を受けていますが、残高上限の減額に踏み切ったのは、同年5月1日から施行された改正資金決済法が大きく影響しています。

今回は、「資金移動業」にフォーカスして、その改正点を中心に解説します。

1 資金移動業者とは

資金移動業者」とは、一定金額の為替取引(現金以外の方法で決済する取引)を業として行う、銀行等以外の事業者のことをいいます。

このたび、残高上限の減額を公表したPayPay社をはじめ、「LINE Pay」を提供するLINE社などは、いずれも資金移動業者です。

資金移動業を行うには、資金決済法に基づき、あらかじめ内閣総理大臣の登録を受けることが条件となっています。

従来は、資金移動業に類型は設けられていませんでしたが、2021年5月1日施行の改正資金決済法により、以下の3つの類型が設けられました。

  1. 第一種資金移動業
  2. 第二種資金移動業
  3. 第三種資金移動業


これらは、主に、事業を行うための条件や取り扱うことが可能な金額において違いがあります。

次の項目から、それぞれについて詳しく見ていきます。

2 第一種資金移動業

第一種資金移動業」は、業として行う為替取引について、金額の上限が設けられていない類型です。

他の類型とは異なり、第一種資金移動業の場合、内閣総理大臣の認可を受けることが条件となっています。
たとえば、100万円を超える金額の為替取引を行う場合には、第一種資金移動業者として、上記認可を受ける必要があるということです。

また、取り扱う金額が高額となるため、滞留規制を課されることとされています。
ここでいう「滞留規制」とは、事業者に資金をとどめておくことに対する規制です。

具体的には、第一種資金移動業者は、資金を処理するのに必要とされる期間を超えて、自社内に資金を滞留することが禁止されています。

さらに、送金先や送金日時の指示がない資金を受け入れることが禁止されるなど、他の類型に比べ、規制が厳しくなっているのです。

3 第二種資金移動業

第二種資金移動業」は、業として行う為替取引について、金額の上限が100万円までとされる類型です。
従来の資金移動業者は、この第二種資金移動業にあたります。

第二種資金移動業を行うためには、内閣総理大臣の登録を受けることが必要です。

仮に、利用者から預かった資金が100万円を超える場合、事業者は、送金と無関係な資金についてその払出しを利用者に求めなければなりません。

にもかかわらず、事業者が送金とは無関係に利用者の資金を受け入れた場合、出資法上の規制に抵触する可能性があります。
そのため、事業者は、送金と無関係な資金を保有することがないように注意する必要があります。

4 第三種資金移動業

第三種資金移動業」は、業として行う為替取引について、金額の上限が5万円までとされる類型です。
第三種資金移動業を行う場合も、第二種資金移動業と同様に、内閣総理大臣の登録を受けなければなりません。

また、資金移動業者は、その類型を問わず、履行保証金の保全義務を課されることとされていますが、第三種資金移動業者については、供託などの資金保全方法に代えて、分別した預金で管理することができるようになっています。

ここでいう「履行保証金」とは、送金途中で事業者に滞留している資金を保証するものです。
たとえば、事業者が倒産してしまった場合、事業者は、ユーザーから預かっているお金を返金しなければなりません。
このような場合に、スムーズに返金処理できるように、送金途中で事業者に滞留している資金の100%以上の額(最低額1000万円)を「履行保証金」として保全することが義務付けられているのです。

履行保証金を保全する方法としては、いくつかの方法がありますが、そのなかでも最も多く利用されているのが「供託」です。
もっとも、供託により資金を保全する場合、事業者は、供託した資金をすぐに取り戻すことができないため、実際に送金を行う際には、資金を別に調達する必要があります。

また、他の方法である「保全契約」を利用する場合、契約の相手方となる銀行等の金融機関が事業者に提供できる保証枠には、与信管理上の限度があり、事業者は保証料を負担しなければなりません。

その点、第三種資金移動業者は、預金での管理が認められているため、上記のような負担を軽減することができ、その結果として、低コストで利便性の高いサービスの提供が促進されると期待されています。

5 まとめ

今回見てきたように、改正資金決済法により、資金移動業は細分化されました。

為替取引として取り扱える金額に制限が課されることについて、使い勝手が悪くなると思う方もいらっしゃるかもしれません。
ですが、取り扱える金額に制限のない第一種資金移動業に対しては、その分だけ厳しい規制が課されることになるため、利用者にとっては、かえって利便性が悪くなる可能性もあります。

今回の、PayPay社による残高上限額の減額変更は、利用者の利便性を重視したことによるものだと考えられます。

弊所は、ビジネスモデルのブラッシュアップから法規制に関するリーガルチェック、利用規約等の作成等にも対応しております。

弊所サービスの詳細や見積もり等についてご不明点がありましたら、ぜひお気軽にお問い合わせください。


なお、記事の内容は投稿時の法令・制度に基づいており、投稿後に法改正等がなされている可能性があります。
記事をご参考にされる際は、必ずご自身の責任において最新情報をご確認下さい。

   

勝部 泰之 (Yasuyuki Katsube)

                     

弁護士(35487 / 東京弁護士会)。証券会社勤務時代に携わったシステム開発案件を中心に、決済、暗号資産、特許関連法務を多く手掛ける。また、エンジェル投資家としてスタートアップ企業の成長を多角的にサポートする活動も行う。 George Washington University Law School (LL.M.・知財専攻) 卒業(2016)。経済産業省 中小企業庁主催 適正取引講習会 「下請法(実践編)」講師(2024)

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